引き続き「高額特定資産」の話題です。
よそから買った1000万円以上の資産に加えて。
自己建設した1000万円以上の資産も対象になっています。
実は、以前からあった「SPC消費税還付スキーム」の対策も兼ねているからです。
「SPC消費税還付スキーム」とは?
国や地方公共団体が大型の公共工事をするとき。
受注する会社が「特定目的会社(SPC)」を設立して。
一つの物件につき一つの会社で受ける、ということがよくあります。
この会社(SPC)は「○○施設の施工・管理のために存在する」
という状態になるわけです。
この会社にお金を残しても仕方ありませんので。
この会社を通して、建設代金を自治体から受領し。
関わった建設会社に配分するようなイメージになります。
では、工期が2年。請負総額10億円(税抜)。
代金は施行主の自治体の予算の関係上。
完成した年から5年分割で支払い。
上記のような工事を受注した場合。
消費税について最も有利な申告をするにはどうすれば良いでしょうか。
(話を単純にするため、経費も全て消費税課税とします)
本来であればSPC全体で消費税はプラスマイナス0のはず…
本来であれば。
預かる消費税が10億円×8%=8000万円。
よそに払う消費税も10億円×8%=8000万円。
この会社全体として6年間の通算では、消費税の支払額・還付額は0となります。
しかしよく見てみますと。
この予算では、よそに払う消費税は1年目と2年目だけ。
なので後半部分では預かった消費税をそのまま納付することになります。
仕入の終了した後半で「簡易課税」を選択して控除消費税二重取り!
そこで、その後半部分では「簡易課税」を選択します。
すると、建設業ですから。
70%はみなし仕入れにより控除され、納付するのは預かった消費税の30%だけです!
なんと、普通に申告すればプラスマイナス0だったはずなのに。
4480万円もの金額が通算で還付となりました!
「あれ、3年目はわかるけど、4年目以降は…?」
「2年前の売上高が5000万円を超えてるんだから、簡易課税は選択できないんじゃないの?」
と気づかれた方、税務のセンスがおありです。
確かにその通りなのですが、ここにもう一つ小細工が入ります。
延払基準の盲点…前倒し計上で全て簡易課税に!
実は、本来なら消費税法上、売上が発生したのは完成引き渡しの2年目。
この年で10億円分、8000万円の消費税を計上して納付するのが原則です。
ですが、代金ももらっていないのに消費税だけ納めさせるのは酷。
代金が3回以上の回数・2年以上の期間の分割払い、などの条件を満たしますと。
実際にお金をもらった分の消費税だけ納めたのでも良いよ、という規定があるのです。
(延払基準、と呼びます)
これは「本来は早く計上しなければならないけど、後にしても良いよ」
という、納税者にとっての有利規定ですので。
選択しても、しなくても良いわけです。
そこで。
2年目の工事完成の年は延払基準を選択し。
実際に受領した2億円だけ収益を計上して、5億円の経費が出ていますので還付を受けます。
そして、3年目で延払基準をやめて、残りの収益を一気に発生させます。
4年目は2年前の売上高が5000万円以上ですから簡易課税は選べませんが。
3年目は2年前の売上高0ですので。堂々と簡易課税で申告できます。
これで事実上、先ほどの図と同じ状態になりました。
簡易課税制度と、延べ払い基準の盲点を突いたようなスキームです。
確かに法に穴が開いている以上。
利用されてしまうのは仕方のないことですが。
課税の公平の見地からすれば、決して良いことではありません。
今年の改正で網がかけられました。
SPC消費税還付スキーム H28.4以降は不可能に
「高額特定資産」の規定が導入されたことにより。
1000万円以上の自己建設資産を取得した場合であっても。
売上の日から「3年間強制的に本則課税縛り」となりましたので。
直後に簡易課税を選択することはできなくなりました。
H22年改正の「マンション自動販売機還付」を封じ込めるための。
「調整対象固定資産」の3年縛り規定は主に設備投資を想定していたので。
対象資産は固定資産全般でした。
「高額特定資産」は定義に「棚卸資産を含む」となっています。
上記の例の建設した公共施設。
SPCにとっては販売目的の資産なので「棚卸資産」。
「固定資産」ではないのですよね。
ですので、「調整対象固定資産」に該当しないため。
今までは上記のスキームが通用したわけですが。
H28年改正で「棚卸資産」もバッチリ網にかかってしまっています。
関係者の皆さま。
工事の見積金額の決定の際、申告の際。
還付スキームはもう使えないことにご注意ください。
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