「贅沢をしない高齢者はお金を持っている」
「お金のかかることがいっぱいの子育て世代はお金を持っていない」
国内で消費が活性化しない一因と言われるこの状態をなんとか動かすため。
金額の大きな生前贈与を非課税にする税制改正が次々成立しています。
①H27年新設【結婚・子育て資金の一括贈与非課税】上限1000万円
H27年4月1日から始まっている制度です。
結婚したいと思わない若者が増えている理由の一つに。
「将来が不安定で、結婚や子育てにかかる資金をまかなえる気がしない」
ということがあるのではないか、という発想からできたのでしょうか。
親が子供の結婚・出産・育児の資金として。
上限1000万円までを子供の「結婚・子育て資金口座」に入れた場合。
この贈与については贈与税を非課税としますよ、という制度です。
「ですので親の皆さんはとにかく先に資金を出してあげてくださいね。」
「若者はお金のことは心配せずに安心して婚活に励んで下さいね。」
という国からのメッセージでしょうか。
しかし、この制度を利用するのは基本的に「相続税対策の必要のある」富裕層。
その家の子供たちであれば。
もともと「お金が心配で結婚に消極的な人」…なんているのでしょうか。
高齢者から若者世代への資金の移転、という効果はあっても。
少子化対策としての効果には少し疑問を感じます。
ところで、どうやって「結婚・出産・育児のための贈与」と証明するのか。
ここが面白いところです。
実は、その預けられた資金は金融機関等が管理していて。
「結婚・出産・育児に関係した領収書等」を金融機関に持って行って。
領収証等と引き換えにでなければ資金を引き出せないような仕組みになっています。
詳しくは前回の記事をご覧ください。
【H27税制改正】国が認める婚活・妊活は50歳まで!?~結婚・子育て資金の一括贈与
仕組みはH25年4月に始まった「教育資金の一括贈与」と同じですね。
②H25年より【教育資金の一括贈与非課税】上限1500万円
H25年4月1日から始まっている制度です。
こちらは、おじいちゃんおばあちゃんなど直系尊属が。
お孫ちゃんなどの「教育資金に充てるため」という名目で。
上限1500万円までを「教育資金口座」に入れた場合に。
この贈与については贈与税を非課税としますよ、という制度です。
①と同じように。資金は金融機関等が管理します。
「教育資金」として使ったことがわかる領収書等と引き換えに。
資金を引き出す仕組みになっています。
30歳になって使い残しがあったら。
その時点で残りに対して贈与税課税、ですね。
気になるのは、「教育資金とはどこまでか」というところですよね。
文部科学省のホームページに細かいQ&Aが載っています。
保育料はOKなのか?
大学生協で購入した学用品は?
部活は?スポーツジムは?
などなど。
かなり細かい点まで書かれています。
個人的に気になるのは。
■スポーツ(水泳、野球など)又は文化芸術に関する活動(ピアノ、絵画など)
その他教養の向上のための活動に係る指導への対価など
■(上記)で使用する物品の購入に要する金銭
の部分でしょうか。
ピアノを習わせて、そのピアノを購入…などとすると。
かなりの金額になりそうです。
詳しくは国税庁のパンフレットをご覧ください。
③【住宅取得資金】消費税10%増税タイミングなら上限3000万円!
こちらはかなりの大盤振る舞いです。
毎年のように改正があって上限額が増えたり減ったり。
対象になる家屋が変わったりするので。
私も「今年これならいくら非課税ですか」と聞かれても、とても即答できません。
とりあえず、最新の改正では上限額はこのようになっているそうです。
ひとえに、消費税10%増税後の景気刺激策ですね。
平成29年4月1日が消費税10%のタイミングです。
平成28年9月30日までに締結した契約であれば。
平成29年4月1日以降引渡でも経過措置で8%取引とできそうですが。
平成28年10月1日以降契約の物件から、10%物件が発生していくわけです。
そのタイミングから1年間は。
省エネ住宅であれば3000万円!
それ以外でも2500万円!
住宅取得資金贈与の非課税枠が使えるそうです。
「消費税が上がった後も家を建ててください!」
という強烈な国からのメッセージですね。
こちらも詳しくは国税庁のパンフレットをご覧ください。
実際の利用について。税理士の雑感。
こんな風に次々と制度ができたり拡充されたり。
「早く高齢者・団塊の世代の財産をその下の世代に移転させたい」
「お金を使う世代がお金を持つ状態にしたい」
という国の思惑が感じ取れます。
景気対策、という面では確かに正解かもしれません。
私も、自営業者の端くれとして。
景気が回復している恩恵にあずかっている面があります。
ですが、先日。
相続対策の提案を持って伺ったクライアント様の言葉に。
頭を殴られたような気がしました。
「相続財産以上に税金がかかるわけじゃないでしょう」
「相続財産なんて、棚からぼたもち。あれば儲けものでしょう」
「全部換金して、相続税払って、いくらか残れば十分じゃないですか」
「子供には誰にも迷惑をかけずに自分で生きていくように教えてきた」
「生前に渡したりして。子供が駄目になる方が心配」
…さすが、40年以上黒字経営を継続してこられた経営者様です。
相続税の税率もかなり高率になる財産をお持ちの方です。
税理士という立場上。
ついつい税額を最小化することばかり考えてしまいますが。
一番大切なのは、そんなことではないことに気付かされました。
子供や孫の人生に何を残すのか。
クライアント様の考えを十分に汲み取った上で。
税務の知識を役立てていきたいと感じました。
コメント