前回の記事では、細かい条件を取り払ってシンプル化したモデルケースで
【法人に利益をため込むことと、役員報酬をギリギリまで持っていくことはどちらが得か】
を検証してみました。
【比較】法人に留保して法人税、社長に支給して所得税~社長様の引退後まで考える②
まとめてみたいと思います。
単年度での税率(法人税、所得税、住民税、社会保険料)
◎法人に利益をため込む
×役員報酬をギリギリまで持っていく
前回の記事で検証したように、
・所得税の税率が低い所得帯では社会保険料の負担率が高く、
・所得税の税率が高い所得帯の最高税率は55%に達する、ため
どの所得帯でもおおむね法人税を払って利益を留保した方が単年度の税率は低くなります。
毎年の資金流出額が少ないわけですから、これは次の要素に関係します。
資金繰りへの影響
◎法人に利益をため込む
×役員報酬をギリギリまで持っていく
減価償却費、早く経費に落としたいですよね。
短期前払費用、利用しますよね。
数か年で見れば支払総額は同じでも。
資金繰りへの影響を考えると税金の支払いを後に延ばしたいものです。
前回の記事の試算をもう一度ご確認ください。
最後の退職金の支払時にかなりの税額を払っていますが、支払総額は低い。
つまり、それまでの各年度に支払う税額は圧倒的に低いわけです。
法人にため込んで退職金で支給とすることで。
実は租税の支払いを後に延ばすこともできています。
明らかに、資金繰りは楽でしょうね。
金融機関からの評価、決算書の見栄え
◎法人に利益をため込む
×役員報酬をギリギリまで持っていく
役員報酬をギリギリまで持っていくパターンの法人の決算書。
とにかく見栄えが悪いです。
どんなに売上が上がろうと、利益はいつもカツカツ。
自己資本はさっぱり増えず、負債ばかり膨らみ、自己資本比率は下がる一方です。
均等割の分、毎年資本を食いつぶしていきます。
経営が長くなればなるだけ、見栄えも悪くなっていきます。
法人に利益をため込んでいる決算書。
なにしろ利益が出ています。儲かっています。
自己資本はどんどん厚くなっていきます。
金融機関としても、貸しやすいですよね。
税務リスク
◎法人に利益をため込む
×役員報酬をギリギリまで持っていく
法人に利益が出ないように、出ないように。
涙ぐましい工作をされている法人の決算書は、税務的にも怪しい臭いがしてきます。
売上がどんなに伸びようと、原価率がどんなに改善しようと。
逆にどんなに悪化しようと。
いつも当期利益がほとんど変わらないなんて、そもそも不自然ですよね。
工作もだんだんエスカレートして、次第にグレーゾーンから黒のゾーンの方法も使い始めます。
そんなリスクを背負っても結局節税にならないなんて、意味がないですよね。
社長様の引退時点まで含めた生涯収入
○法人に利益をため込む
×役員報酬をギリギリまで持っていく
前回の記事で検証したように。
一見、「法人税を払った後の利益にもう一度退職金課税される」というと。
二重課税で高負担なように思えますが。
実際にはそれでもその方が負担が低くなるケースが多いです。
また、次の、受け取る時期の違いにも注目できます。
社長様のお金に関するライフプランへの影響
◎法人に利益をため込む
×役員報酬をギリギリまで持っていく
中には本当に自分に厳しく。
どんなに収入があっても財布のひもを緩めない、強い意志を持った経営者様もおられます。
でも大半の社長様は。
役員報酬で持っていくと、不思議なくらいそのままどこかへ行ってしまいます。
本来、法人に利益をため込んでいないのであれば。
老後資金は役員報酬の中から積み立てておかねばならないはずです。
法人に利益を留保することで、自動的に社長様の老後資金の積み立てがなされていきます。
どこに行くかわからない家計にお金を預けるより。
毎月確認する法人の試算表の中に老後資金がたまっていく方が安心ではないでしょうか。
社長様の見栄(自分は年収○○万だ!)
×法人に利益をため込む
○役員報酬をギリギリまで持っていく
法人に利益を残そうとしますと。
社長様は経営が思わしくない時期には、ご自分の役員報酬を下げる必要があります。
私には全く理解できないのですが。
大赤字でも、「役員報酬を下げるのはイヤ」という社長様は、実際におられます。
プライドなのでしょうか。見栄なのでしょうか。
以前の記事で書いたように、赤字になるまで役員報酬を取れば。
ありもしない利益(報酬)から、払わなくて良い税金をさんざん払うことになります。
現実を見たくない、架空でもいいから自分の年収を高く思い込みたい。
そのためなら無駄に税金を払っても構わない。
そのような社長様には、法人に利益を残さない方が良いでしょう。
結論:現行の税制であれば、中小企業も法人に利益を留保した方が得。
以上を考えますと、結論としては
現行の税制であれば、中小企業も法人に利益を留保した方が得。
ということになるかと思います。
今後、税制が変わることもあります。
先の見えない経済状況の中で10年後、20年後を考えることは難しいです。
しかし、現行の税制で、一定の前提のもとであればこのように試算・検証は可能です。
ご自分の会社はどうでしょうか。
是非、専門家にご相談なさってください。
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