以前の記事で、法人に残した利益を最終的に社長に移転する際には
【配当所得】【退職所得】【譲渡所得】
のいずれかの所得として課税されることを書きました。
(以前の記事【比較】法人に留保して法人税、社長に支給して所得税~社長様の引退後まで考える①)
これをふまえて、[法人にため込むこと][社長が根こそぎ持っていくこと]の有利不利を検証してみます。
便宜上、以下の部分では
役員報酬・会社負担社会保険料を引く前の法人利益=実質的な社長様の稼ぎ=【年収】
と定義して、【年収】という言葉を使っていますのでご了承ください。
社長様の扶養家族は奥様のみ。
基礎控除・扶養控除・生命保険料控除等合わせての所得控除は100万とします。
均等割は、いずれのケースも同じですので比較計算上無視します。
細かい計算方法は以前の記事それ、本当に節税ですか?①【法人税は払わない】をご覧ください。
モデルケース1.年収2000万円前後の社長様の場合
比較ケース①法人に毎年税引前約500万円残して留保、20年後全て退職金で支給
※役員報酬の支給額 月@110万
※社会保険料個人・会社負担それぞれ 月@11.4万
※各年法人利益 2000万-(110万×12月)-(11.4万×12月)=543.2万
(1)毎年の社長様の手取り役員報酬
・月々 … 110万(収入)-18万(所得税・住民税)-11.4万(社会保険料)=80.6万(73.3%)
・年間 80.6万×12月=967.2万
(2)20年後の手取り退職金
・法人留保累計額(退職金支給額) … (543.2万×75%=407.4万)×20年=8148万
・課税退職所得 (8148万-800万)×1/2=3674万
・所得税額 3674万×40%-279.6万≒1190万
・住民税額 3674万×10%≒367万
・所得税・住民税計 1190万+367万=1557万(19.1%)
・手取り退職金 8148万-1557万=6591万
(3)社長様の20年間の手取り収入合計
(1)×20年+(2)=2億5935万円
比較ケース②法人に利益を残さないようギリギリまで役員報酬支給、退職金はわずか
※役員報酬の支給額 月@154万
※社会保険料個人・会社負担それぞれ 月@12.5万
※各年法人利益 2000万-(154万×12月)-(12.5万×12月)=2万
(1)毎年の社長様の手取り役員報酬
・月々 … 154万(収入)-35.7万(所得税・住民税)-12.5万(社会保険料)=105.8万(68.7%)
・年間 105.8万×12月=1269.6万
(2)20年後の手取り退職金
・法人留保累計額(退職金支給額) … (2万×75%=1.5万)×20年=30万
→金額寡少のため課税されず
・手取り退職金 30万
(3)社長様の20年間の手取り収入合計
(1)×20年+(2)=2億5422万円
いかがでしょうか。
ほとんど変わらないとはいえ、約500万円の差がつきました。
年収2000万円の社長様にとって、少なくはない金額ではないでしょうか。
モデルケース2.年収1億円前後の社長様の場合
比較ケース①法人に毎年税引前約3000万円残して留保、20年後全て退職金で支給
※役員報酬の支給額 月@570万
※社会保険料個人・会社負担それぞれ 月@12.5万
※各年法人利益 1億-(570万×12月)-(12.5万×12月)=3010万
(1)毎年の社長様の手取り役員報酬
・月々 … 570万(収入)-250万(所得税・住民税)-12.5万(社会保険料)=307.5万
・年間 307.5万×12月=3690万
(2)20年後の手取り退職金
・法人留保累計額(退職金支給額) … (3010万→2037万(※))×20年=4億740万
(※)実効税率 800万以下部分25%、800万超部分35%として計算
・課税退職所得 (4億740万-800万)×1/2=1億9970万
・所得税額 1億9970万×45%-479.6万≒8507万
・住民税額 1億9970万×10%≒1997万
・所得税・住民税計 8507万+1997万=1億504万
・手取り退職金 4億740万-1億504万=3億236万
(3)社長様の20年間の手取り収入合計
(1)×20年+(2)=10億4036万円
比較ケース②法人に利益を残さないようギリギリまで役員報酬支給、退職金はわずか
※役員報酬の支給額 月@820万
※社会保険料個人・会社負担それぞれ 月@12.5万
※各年法人利益 1億-(820万×12月)-(12.5万×12月)=10万
(1)毎年の社長様の手取り役員報酬
・月々 … 820万(収入)-388.3万(所得税・住民税)-12.5万(社会保険料)=419.2万
・年間 419.2万×12月=5030.4万
(2)20年後の手取り退職金
・法人留保累計額(退職金支給額) … (10万×75%=7.5万)×20年=150万
→金額寡少のため課税されず
・手取り退職金 150万
(3)社長様の20年間の手取り収入合計
(1)×20年+(2)=10億758万円
こちらのケースでもやはり。
ほとんど変わらないとはいえ、3200万円以上の差がつきました。
また、これくらいの利益を上げる法人であれば。
おそらく最後の社長様への利益の移転の際【退職金支給】ではなく【株式の売却】も可能でしょう。
この場合、分離課税20%の税率で済みます。
うまく組み合わせることで、上記の試算よりもさらに差がつきます。
損得の基準になる数値、税率
どこでこの差がつくのでしょうか。
まず、ケース①の年収2000万前後の社長様。
ここではまず単年度の法人税率の低さがものを言います。
実効税率わずか25%で留保して良い、と国がお墨付きを与えてくれているのです。
利用しない手はありません。
この税率と、月々の給与明細での所得税・住民税・社会保険料を引いた手取り率。
これを比べてみれば良いですよね。
法人から根こそぎ役員報酬を持っていくケースでは手取り率が7割を切っていました。
つまり、30%以上税金等を払いながら給料を持っていくわけです。
多くの社長様がこの損に気がつかない理由は以前の記事に書いた通りです。
毎月分割で、しかも従業員の社会保険料や源泉税と一緒に納付していますので。
払っていることに気づいておられないだけです。
続いて、ケース②の億単位の年収を上げておられる社長様。
こちらは、所得税の最高税率の高さがものを言います。
H27年以降、最高税率は所得税・住民税合わせて55%に引き上げられました。
下がり続ける法人税率と、上がり続ける個人所得税率。
最高税率のターゲットとなる所得が発生する場合、法人に留保した方が良いことは明らかです。
次回の記事で、
【法人に利益をため込むことと、役員報酬をギリギリまで持っていくことはどちらが得か】
まとめてみたいと思います。
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