「贈与」と聞くと、「贈与税かからない?大丈夫?」とピンと来るのに。
「名義を変える」と聞いたのでは「贈与」と全くつながらない方がおられます。
でも、1000万円の現金をお父さんが子供にあげるのも。
1000万円のお父さん名義の土地を、子供名義にするのも。
どちらも1000万円の「贈与」ですよね。
「贈与」と気付かないケースの恐ろしさ
孫「今度、脱サラして会社を立ち上げようと思うんだけど。」
祖父「そうかい、何もやれないけど、裏の空き家は使ってくれていいからね。」
孫「いいの?ありがとう!」
祖父「遊ばせておいても固定資産税がかかるだけだしね…」
孫「本当だね…あ、そうだ!使わせてもらうんだし固定資産税僕が払うよ!」
「おじいちゃんのところに請求が来ないように、この際、名義も会社名義にしておくね!」
こんな何気ない会話。
少し税金に詳しい方が聞くと、ぞっとすると思います。
この家族、全く
「時価○○百万円の家屋と、時価○○千万円の土地を贈与している」
ことに気付いていません。
さて、不動産の名義を変更しますと法務局への登記が行われます。
税務署は登記簿をかなりの頻度でチェックしているようです。
この家族が全く申告していないのを見つけられると、何が起こるでしょうか。
贈与を受けた孫の会社に法人税!
仮にこの建物と土地の時価が1千万円だったとします。
(「時価」の概念についてはややこしいので別の記事で書きます。)
この家族は全く気付いていませんでしたが。
1千万円の建物と土地を贈与しており。
しかもその証拠が登記簿にしっかり残っています!
弁解のしようがありません!
この場合、この贈与以外では利益とんとんの孫の会社。
1000万円の受贈益が発生してしまいました。
払わなければならなくなる法人税は、
1000万円×40%-120万円=280万円!
数年たって税務署から問い合わせ。
納税額が280万円+延滞税・加算税と知って慌てる孫。
1000万円の価値のある不動産をもらったからといって。
現金を持っているわけではないので途方にくれます。
しかし悲劇はこれだけでは終わりません。
祖父に譲渡所得税-タダであげたのに「儲け」に課税?
税務署は続いて。
「祖父さんの方も譲渡所得税の申告がなされていないようですが…」
と切り出します。
「えっ、譲渡所得税って…
買った時よりも高く売れたら差額が儲けとして税金がかかるんでしょう?
祖父さんからはタダでもらったんだから、祖父さんは儲けゼロですよ?」
実は、このようなケースの場合。
税法上。
「土地をゼロ円であげた」とは考えません。
「土地はあくまでも時価で孫の会社に売ったが、
もうらうはずの代金をもらわなかった=贈与した」とみなされるのです。
(祖父の手を離れる瞬間はゼロ円だった土地が、
孫の会社の手に渡った瞬間に1000万円になるのは不思議ですよね。
祖父の手を離れる瞬間にもう1000万円になっていた、と考えます。)
さて、この土地が昔からの土地で、購入価格などさっぱりわからないとしたらどうなるでしょう。
1000万円で孫の会社に売ったとみなされてしまうこの土地。
購入価格がわからなければ売却価格の5%で買ったとみなされます。
祖父さんは、
1000万円(売却価格)-50万円(みなし購入価格)=950万円(譲渡益)
950万円×20%(所得税・住民税)=190万円!
なんと190万円+加算税・延滞税を支払うことになりました…
1000万円の土地の名義を変えただけで。
家族全体で500万円弱!
半分近くが税金に変わってしまいました。
「贈与」と気付きさえすれば対策はいくらでも打てます。
あまりにもひどい話ですよね。
こうならないためにはどうすれば良かったのでしょうか。
そもそもこのケース。
別に無理に名義を変える必要なんてありませんでした。
普通に孫の会社が借りて。
タダで借りるのが申し訳ないなら、家賃を払えば良いだけです。
また、どうしても名義を移したい事情があったのなら。
会社名義ではなく孫名義にすれば。
贈与税はかかっても、譲渡所得税のダブルパンチは受けずに済みました。
また、祖父の相続財産や相続人の状況にもよりますが。
平成27年からは孫も相続時精算課税を使えますので。
2500万円の特別控除を使って移転する手もありました。
いずれにせよ、
「1000万円分の財産を移転して半分近くが税金に消える」
などというバカなことをする必要は一切なかったのです。
「代金なしの名義変更」=「贈与」
であることをまずは頭に入れていただいて。
実行の際には必ず専門家にご相談されることをお勧めします。