散り際の美学~美しい倒産と醜い倒産②

税理士による経営のヒント

前回の記事で、「美しい倒産と醜い倒産」について書きました。

私が実際にお会いした二人の社長様をご紹介します。

早い決断でご自分と従業員を救ったY社長と。

対照的なA社長です。

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1.小売業Y社長

昔ながらの商店街やショッピングモール内に複数出店している。

小売業のY社長から数年前、知り合いを通じて依頼を頂きました。

 

Y社長は2代目で、先代から会社を引き継がれました。

しかし私が関わった時点で、すでに数期連続赤字でした。

Y社長の業種は、近年特に大型店の出店が進んでいて。

昔ながらの店舗は、近所に大型店ができれば否応なくつぶれていく状況です。

 

自計化して、毎月きちんと経理スタッフに試算表を出させ。

自分できちんと目を通しておられる立派な社長様でした。

 

当時まだ60歳前だった社長から、試算表を見ながら聞かれました。

「これ、続けたほうが良いですかね。」

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私のような若造が、「やめたほうがいいです」というのは難しいことです。

しかし、どの店舗も売上はここ数年、じわじわと落ち続けています。

毎年のように役員報酬を引き下げていますが、赤字額は変わりません。

 

スタッフとの関係は良好で。

「給料が下がってもよいので働きたいです」と言ってくれています。

 

しかし、貸借対照表。

昔の良かった時期に、散財することなく堅実に経営してこられた結果。

積みあがっていた純資産が毎年の赤字で目減りし続けています。

このペースでもう数年すれば、債務超過に転落します。

そして、業態的に、正直言ってまず好転の見込みはありません。

 

つまり、今清算すればいくらか手元に残る

数年後精算すれば、おそらく借金が残ってしまう

ということです。

 

率直に、数字上の事実のみをお話ししました。

そして、スタッフさんも再就職先を探すのは大変かもしれませんが。

数年後探すよりは、まだ若い今のうちに探すほうが容易であることもお伝えしました。

 

きっと、無理に頑張っても

売上はじわじわ落ち、連動して皆の給料もじわじわ下がり。

皆が新しい出発をする決断がつかないままその状態が続く…

誰も幸せにはならないと思ったのです

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それほど経たずに社長様から電話がありました。

「会社を清算するので相談に乗ってください」

 

ショッピングモール内の店舗を閉店し。

返ってきた保証金で金融機関の借入金は返済できました。

 

長年勤めてくれていたスタッフが。

そのスタッフが担当していた店を自分で続けたいと言いましたので。

退職金までは出せませんでしたが、その店の権利をタダで譲りました

退職金代わりです。それに在庫は買い取ってもらえました。

 

社長の老後の生活のため。

社長が一人でもできる規模の店を一つ残して。

社長が個人で続けることにしました。

細々とではありますが、赤字になることはなく年金の足しになることでしょう。

 

清算して、それほど多くはないとはいえ。

いくらかのお金と、小さな店舗一つが残りました

 

確かにこの社長の代で会社がつぶれたことは事実です。

社長の肩書は、「社長」から「個人商店の店主」に変わりました。

でも私はこの社長様を尊敬します。本当に早い決断でした。立派でした。

 

きっとスタッフさんたちも。

この会社がこれから競争で負けたであろう大型店等に。

再就職することができたのではないかと思います。

これから沈没していく業種にしがみつかせてしまうより。

これから伸びていく業種に移動を促す方が親切かもしれません。

 

 

2.美容業A社長

福岡は全国で最も人口一人当たりの美容師の多い地域と言われています。

その福岡で複数店舗を展開しておられたA社長。

自分で独立して美容室を始められたのち。

スタッフが増え、2号店を出し、3号店を出し…

規模を拡大させて来られた方です。

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しかし近年のこの業界の競争は、私見ではあまりにも激しすぎます。

美容師の賃金が低すぎることが問題になっているそうですが。

これだけ需要に対して供給が多すぎるのに、さらに志望者が流れ込んでいるこの状況では。

業務単価も賃金も上がりようがありません。

美容師が減らない限り改善しないでしょう。

 

A社長の美容室も、近年赤字続き。

そして、非常にまずいことに社長は数字に非常に弱い。

というより現実を見たがらないタイプでした。

 

奥さんが経理をしているのですが。

お金がない話をすると「管理が悪い!」と怒鳴る

損益が赤字であれば、貯金したところで崩さなければならなくなるだけです。

管理の問題ではありません、赤字の問題です、というところを。

こんこんと話してもわかったようなわからないような…という人でした。

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そして、この手の社長に多い気がしますが、とにかくわきが甘い。

 

業界の特徴もあるかもしれませんが。

学業が続かなかった若い子をとりあえず見習いで採用する。

当然続仕事も続かない子が多いので。

全く稼げない入れ替わりの激しい子たちの給料を、延々どぶに捨て続ける。

 

ろくに管理もしないWEBサイトを業者に丸投げで作らせる。

高価で見栄えは良いものの、アクセスは全くないサイトがWEBの海を漂う。

 

ローンで買えばお金は出ていかないと勘違いしているのか。

簡単にローンを組んでしまう。

 

自社が赤字なのに。

地域が活性化しないと店も良くならないなどと言い訳をして。

本業そっちのけで組合の役員やらなにやらに精を出す

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とにかく無駄なところにお金が流れすぎているので。

結果的に、本当に稼いでくれているスタッフの給与が安いのです。

賃金が低すぎるため、稼げるスタイリストがやめてしまうのです。

 

なんとかこの社長に損益と資金の把握の仕方を理解してもらえるよう。

私なりに損益や資金のシミュレーション表等を作成して説明したものです。

そして、「売上がこのラインを割ったら半年後は資金が枯渇しますよ」

という説明をするたびに、「それくらいは大丈夫だ!」という反応なのですが。

毎回のようにそのラインを割り、金融機関に追加融資を頼む状況でした。

 

しかしついに、実家が資産家の奥さんを連帯保証に入れる条件を突き付けられました。

前回の記事で書いた、事業が終わった瞬間です。

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こんこんと、この状況がいかにまずいか。

死ぬ気で再生するか、やめるかどちらかだという話をしました。

そして、今の赤字はひとえに社長のわきの甘さが原因だという。

若造の私からは非常に言いにくい指摘を延々としました。

 

さすがのA社長も表情が変わり、私の生意気な指摘にも反論することなく。

「絶対に黒字化させる!」とおっしゃいましたので。

金融機関にリスケを申し込み

売上は伸びなくても経費はこれだけ削減できる、という事業計画書を提出しました。

 

その後、約半年くらい。

さすがにこたえたのか、経費はかなり絞られ、それなりに資金も回復傾向にありました。

しかしやはり喉元過ぎれば。

本質的な人格や考え方はそうそう簡単に変わらないものです。

 

不採算店舗を、その店の店長が買いたい、独立したいと言い出したので。

良い値で売却でき、一時金が入ったあたりからだったでしょうか。

 

計画書を書く段階で「稼げない新人は採用しない」としていたのですが。

訪問して給与台帳を見ると。

明らかに学校を出たばかりの年齢の子が載るようになりました。

 

言いにくい話でしたが、奥さんも交えて。

「生活費は最低いくら必要ですか」という話をしていました。

計画書に、その最低額の支給で資金流出額を設定し。

それ以上は取らないことを約束していました。

しかし小口現金などから、「社長へ」という出金がぽろぽろ出るようになりました。

 

顧客の定着率が何倍にもなる!などとうたうパーマ剤の導入を決め。

多額の初期投資をしたにもかかわらず、全く客は増えず。

業者に丸投げで何とかしようとする性格も変わりませんでした。

 

当然これでは黒字化などするはずがありません。

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今、私は関わっておらず、うわさで聞くだけなのですが。

もう自分で借金はできませんので。

将来店を譲るなどと言って、店長に独立資金名目で金融機関から借金をさせ

どうやら前金で会社に入れさせて運転資金に充てたりしているそうです。

最近車もレクサスに変わったそうです。間違いなくフルローンでしょう。

 

前回の記事で書いた末期症状。

延命状態の典型のようです。

 

きっと私が最後に見た状態から。

負債は急激に膨れ上がっていることでしょう。

おそらくそれは親族や

そして自分を信頼してくれていた従業員などを巻き込んだ負債です。

この社長が倒産するとき、何が残るでしょうか。

 

 

 

順調な時、人は誰でもニコニコしています。

優しさや、気遣いを示すのは難しくありません。

 

本当に人格が試されるのは、難しいときです

現実を直視できる冷静さ。

見栄やプライドと、家族や従業員や大事な人たちの、どちらが大切かを見失わない判断力。

大切な人たちへの、本当の優しさと気遣い。

 

経営にとって一番難しい、倒産という局面を迎えた時にも。

大切なものを失わない経営者でいたいと感じます。

 

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