散り際の美学~美しい倒産と醜い倒産①

税理士による経営のヒント

税理士として独立して早くも7年目に入りました。

このわずかの間に、直接関わった方やその周辺で。

かなりの件数の倒産を見てきました。

経営には経営者の性格が表れますが。

順調な時より、難しいとき。それはさらに顕著になるように思います。

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倒産するのにかかる年数~5年から7年?

事業がうまくいかなくなって。

傍目には「もうやめたら…」と見えるような状況になっても。

経営者様には当然様々な思いがあります。

 

創業した際の苦労と、楽しかった思い出。

2代目であれば父親と一緒に事業を拡大した記憶。

廃業した後の生活の不安。

「社長」という肩書を失うことへのプライド。

 

冷静に見れば事業を継続すべきでない状態になったとしても。

そうすぐにやめられる人は多くありません。

多くの場合倒産までには次のステップをたどります。

 

①初期症状:営業赤字連続期

資金ベースでは表面上回っているとしても。

損益ベースで赤字が毎年継続する状態です。

 

試算表をきちんと作成し、貸借対照表をチェックしていない場合。

異常にも気が付かないかもしれませんが。

損益ベースで赤字ということは、借金や未払金など何らかの形で。

負債が膨らんでいく状態ということです、

 

なんだか最近やけに資金繰りが悪いな…とか、

最近なぜか頻繁に銀行で借換しなきゃいけないな…と感じる状態です。

 

この状況が継続して、次の段階に至るまでに、2年から3年かかります。

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②中期症状:金融機関返済停滞期

顧問税理士がいればおそらくその税理士が。

金融機関から折り返し融資を断られて、どこかにかけこんだならそのコンサルタントが。

「約定通りの返済は不可能だからリスケしなさい!」

と言って一緒に金融機関に頭を下げに行く段階です。

 

◆売上-経費=利益。

◆利益-租税=借入返済可能額。

 

利益が出ていないということは借金は1円も返せないということです。

毎月返済の約定通り、銀行預金から一応借入返済額が引き落とされたとしても。

利益が出ていないなら同じ金額を新たに借りなければ資金は回りません。

赤字が続くのに何とか資金が回るということは。

借換を繰り返して、借入金が赤字分ずつ膨らんでいる状態です。

 

これが永久に続くわけはありませんので。

金融機関から「不動産担保でないともう貸せません」とか。

「金持ちの親族を連帯保証人にいれて下さい」と言われる段階が来ます。

事業からの返済は無理、と金融機関が見切りをつけたことの表れです。

無理だから、よそから回収しようとしているわけです。

 

誰もはっきり「もうやめなさい」とは言いませんが。

実質ここがある意味、事業として終わったタイミングです。

ここで社長は決断しなければなりません。

 

・第三者の判断通り、事業を終わりにするか。

・数年ただ働きする覚悟で、死ぬ気で再生させるか。

 

事業を継続させる、ということを決断するならここが最後のチャンスです。

しかし、多くの社長はどちらも選択せず。

コンサルタントから綺麗に書いてもらった経営計画書を銀行に提出して。

返済を猶予してもらいつつ、ずるずるとそのまま今まで通りの経営を続けます。

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③末期症状:延命期

返済を猶予してもらったところで。

それまで通りの経営を続けていれば当然赤字ですので。

返済がゼロでも資金は減るわけです。

 

しかもなお悪いことに。

今までは月末の借入金返済引き落としが怖くて、なんとか資金をためていた社長が。

引き落としがないもので気が大きくなってさらに財布のヒモが緩んだりします。

 

あっという間に返済猶予で約束した1年が過ぎ。

返済が再開するのに全く資金は回復していない、むしろ減っている!

などということになります。

 

返済が再開したとき、非常に残念なことに以前と変わったのはただ一点。

もう金融機関からは借りられないということだけです。

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ここではっと気がつけばまだ良いものの。

まだ気が付かない社長はその場しのぎの延命を続けます。

 

貸借対照表をイメージしてください。

赤字が続いて資本の部が減っていっても資産の部を維持するためには。

負債を増やすしかありません

しかし金融機関からは借りれません。

 

親族から借り始めます。(短期借入金)

従業員の給料が遅れ始めます。(未払金)

仕入先への支払いが遅れるようになります。(買掛金)

次の仕事の代金を先にもらって、前の仕事の支払いに充てます。(前受金)

納税、社会保険料の支払いが滞ります。(未払租税等)

 

負債の部、金融機関の借入金以外の科目がものすごい勢いで膨らみ始めます。

ここまでいくと、まず再生は不可能です。

 

金融機関の返済、租税の支払いは。

遅れていいわけではありませんが、遅れたところで本業への影響はさほどありません。

ですが、従業員、支払先、そして得意先に迷惑をかければ。

優秀な関係者から逃げ出していきます。

今まで事業に貢献してくれていた人から順にいなくなります。

こうなると損益までさらに悪化していきます。

 

迷惑をかける人を増やせば増やしただけ

この延命期が伸びていきます。

場合によってはこの状態が5年ほど続くこともあるようです。

 

最後に何が残るでしょうか。

最後の数年間で急加速して雪だるま式に膨らんだ負債と。

迷惑をかけて失った、信用と人間関係の残骸です。

 

迷惑をかけてはいけない人に、迷惑をかける前に

100%うまくいく事業などありません。

シャープをはじめとして。

日本を代表する優良企業であった企業でさえ、行き詰まることがあります。

 

行き詰まることは何も恥ずかしいことではありません。

恥ずかしいのは、その現実を認めずに関係者に迷惑をかけ続けながら延命することです。

 

本当に行き詰まって倒産や破産を迎えるとき。

金融機関以外、誰にも。特に親族に、迷惑をかけていないなら。

その人たちが再起を助けてくれます。

金融機関はもともと貸し倒れ率を考慮して利率を設定しているのです。

申し訳なく思うとしても、ベストを尽くし誠実に付き合ったのであれば。

何も気にすることはありません。

 

でも、「かならず好転するから今だけは辛抱してくれ」などと言いながら。

奥さんや親族から借りたり、彼らを連帯保証人にさせていたなら。

息子や娘を就職先から呼び戻して役員に巻き込んでいたなら。

従業員を給料遅配で働かせていたなら。

「好転しつつあるんで貸してください」などとうそまみれの試算表を出して

金融機関から融資を引っ張っていたなら。

中古なのだからいいだろう、などとわけのわからない言い訳をして。

最後まで見栄のために高級車のローンを組んでいたりしたなら

 

誰一人、同情などしないでしょう。

同情してくれる奇特な人がいたところで、もうその人は。

すでに巻き込んで一緒に沈没してしまっています。

 

 

同じ倒産でも。

現実を正面から直視して誠意を尽くした美しい倒産と。

見栄と優柔不断のために他人を巻き込んだ醜い倒産があります。

 

今後の記事で、実際にこの6年間に私が見た実例を紹介したいと思います。

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