長引くデフレの中。税理士業界にも着実に価格破壊の波は押し寄せています。
「激安」「格安」をうたう税理士事務所のホームページ。
無資格で法的にはギリギリのところで営業される記帳代行屋さんも増えてきました。
私も以前、月額7000円で税理士法人に依頼していた法人の帳簿を見たことがあります。
月額7000円の記帳代行の衝撃
一番最初に試算表を拝見した瞬間に「???!」となりました。
まず、売掛金、未払金、その他の経過勘定科目が赤残だらけなのです。
残高が合っているとかいないとかいう以前に。
合わせる気すらないことが一目でわかります。
損益計算書には当期純利益が一応書いてはありますが。
どの科目を修正しても変動しそうです。全くあてになりません。
しかも、その期は消費税免税事業者なのに。
税抜経理で仮払消費税と仮受消費税が試算表に載っているんです。
このまま最後まで行ったら。この福岡の某税理士法人さん。
消費税の申告書まで書いて納付書を持ってきたのでしょうか…
さすがにその前には気がついたでしょうか。
ちょっと気になりました。
月額7000円で誰が、どんな作業をするのでしょうか。
一般に、税理士事務所の人件費率は売上高の50%~60%前後と言われているそうです。
特にスタッフの多い事務所は宿命的に。
作業人数分のパソコン・ソフトのライセンス・デスクを用意しなければなりません。
また、そこそこ便利の良いところに大人数の作業できるオフィスを借りれば。
それなりに家賃・光熱費等もかかります。
売上のうち、純粋にスタッフの労務費に回るのは半分強といったところのようです。
では、月額7000円の料金でしてもらえる作業の労務費はいくらでしょうか。
約3500円前後です。
時給800円のアルバイトさんで4時間強、お昼からの半日仕事です。
時間単価2000円前後の社員であれば、1時間少ししか作業できません。
あとから、冒頭の法人さんに事情を聴いてみますと。
振替伝票は、クライアント側で作成していたそうです。
納得がいきました。
あくまでも想像ですが。この仕事の流れはこうです。
クライアントさんが、現金出納簿や銀行通帳、振替伝票一式を税理士法人に郵送します。
税理士法人の、ずらっとパソコンが並び、その前にアルバイトさんが並んでいるオフィス。
その時給800円のアルバイトさんが封筒を開封します。
3~4時間かけて、送られてきたものをそのまま、会計ソフトに打ち込みます。
「試算表の印刷」ボタンをぽちっとクリックして、出てきた試算表。
それと送られてきた書類を封筒に詰めて送り返します。
これなら確かに、月額7000円で出来ます。
激安税理士・記帳代行業者を利用するメリット
同業者をかばうわけではありませんが。
この某税理士法人さんが特別ひどいわけではないと思います。
なぜなら、このサービスにニーズはあるはずだからです。
会計も経理も税務も知識はある。手書きなら総勘定元帳も試算表も書ける。
でもパソコンがとにかく苦手でほとんど触れない。
そんな社長様が開業されて、今忙しくて経理の時間が無い。
スタッフに自分の会社の内情を見せるのは嫌。経理はさせたくない。
何とか、【会計ソフトへの入力だけ】外部委託できないだろうか…!
この社長様にはぴったりです。そして何より安い。
ソフトもパソコンも用意しなくて済みます。非常に良いサービスですよね。
冒頭の法人様がひどいことになっていたのは。
会計も経理もまったく素人の社長様が、ただ安いというだけで使っていたからです。
きっと相見積も取られたのでしょう。
とにかく安くしてくれるなら他のサービスはいらない、ということで交渉したのでしょう。
ですが、そうするのであれば。
通常税理士がする部分の仕事は、ご自分でできるように。勉強もするべきでした。
激安税理士・記帳代行業者に依頼する際の2つのポイント
上記をふまえて、上手に激安税理士事務所・記帳代行業者を利用するポイントを考えてみます。
①税務顧問とは思わない。ソフトレンタル料+入力作業代行と考える。
「うちは税理士さんに頼んでるから。」
なんだか、会計・税務全般を税理士さんに見てもらっているようなニュアンスですよね。
「税理士さんに頼んでいる」のではなく。
実質的には「税理士事務所のアルバイトさんに 入力作業を頼んでいる。」
ということを忘れないようにした方が良いと思います。
②試算表・総勘定元帳・決算書は必ず自分でチェックする。
会計のプロが見ているとは思わない方が良いかもしれません。
時給800円でも、仕事のできるアルバイトさんもいます。
でも、もしかしたら昨日入ったばかりの新人さんがするかもしれません。
出来上がってきたものは、必ずご自分でチェックできるよう、勉強なさってください。
あらゆる産業で、従来は手薄だった「ニッチ」を狙うサービスが生まれています。
激安税理士事務所・記帳代行業者もその1つかもしれません。
どの層をターゲットにしたサービスなのか。
きちんと理解したうえで賢く利用することで、安物買いの銭失いにならずにすむでしょう。
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