平成29年4月1日から消費税率が10%に引き上げられることもあり。
「ただでさえ生活が苦しいのに!生活必需品は勘弁して下さい!」
と、一部の品目については税率を下げる軽減税率の導入を求める声が上がっているそうです。
実は、税理士はほぼ全員、これはやめてほしいな、と思っています。
税率が入り交じる消費税の申告は大変!
前回消費税が5%~8%に引き上げられた時。
個人事業でご自分で申告なさっている方は皆さん相当苦労されたと思います。
「ただでさえ、消費税の申告書って集計も記載もややこしいのに!」
「これに税率別の集計も絡むなんて…」
「正直合ってるかどうかよくわからないけどエイヤッで出してきた」
という方も多いのではないでしょうか。
私も税務署の説明会講師をしたとき、普段の倍以上の方が来られていたり。
税務署の個人課税の担当者さんから、一人につき例年の4倍時間がかかった話を聞いたり。
やはり大変だったのだろうな、という印象を受けています。
軽減税率が導入されると。
これが、毎年になります。
税率が複数になった日には。
普段の取引を全部税率別に区分して、集計して…
もはや税理士に依頼していない方が自力で申告をするのは不可能なレベルになりそうです。
しかし大変なのは申告の手間だけではありません。
税務リスクの増大~食料品は非課税、どこまでが食料品?
軽減税率を導入した国が、ほぼ例外なく、みな苦労している点です。
ある国では生活必需品の食料品は非課税。でも酒やお菓子は必需品ではないから課税。
としているそうです。
「じゃあ果物は?生なら非課税、ドライフルーツはお菓子で課税?」
「酒は課税、じゃあ焼酎付けにした果物は?」
…言い出したらきりがないですよね。
日本でもこの点が検討されて、食料品のうち生鮮食品だけ軽減税率、という案が出たそうです。
ですが生鮮食品だけということは加工食品はだめ、ということになりますから。
納豆や干物は普通に課税されてしまうわけです。
「なぜ納豆が課税になるんだ?」
「納豆を非課税にできないのか?」
「なぜ納豆だけ特別扱い?」「味噌や醤油は課税なのに?」
などと線引きでもめて、今のところ法案の審議が進んでいないそうです。
しかしこんな言い出したら きりがないグレーなところだらけで法案が通ってしまって。
グレーなところについて非課税で申告していたら後日税務調査でごっそり課税された。
なんてことになったらたまりません。
税率も10%になるのです。
場合によってはその部分のトラブルで潰れる中小企業が出てもおかしくありません。
イギリスのスターバックス、店内でお召し上がりならお会計20%UP!
諸外国の軽減税率の例です。
イギリスのスターバックスには商品に2つの値段表示がしてあるそうです。
理由は、
「食料品は生活必需品だから非課税!」
「外食は贅沢だから課税!」
ということで、持ち帰りなら非課税、店内で食べるなら課税、になるからだそうです…
この時点で、別に贅沢さに差はないでしょう…などと突っ込みどころ満載ですが。
店は細心の注意を払ってきちんと区分して集計しないと。
店内で食べる食品を「持ち帰り」としてレジ打ちしていれば。
税務調査で「これは店内で食べさせたぜいたく品なのだから消費税払いなさい!」
と指摘されて巨額の追徴を受ける可能性がありますから必死です。
こんな風に見て行きますと。
結局、本来の軽減税率の目的は「生活が大変な方の負担を軽くする」ことのはずなのに。
全く本来の目的などとは関係のないところで。
課税非課税の線引きが行われ、手間やリスクが増大していくように思えます。
税理士業界としては。
これで今まで自分で申告しておられた小規模事業者の方の中にも。
税理士に依頼せざるを得なくなる方もたくさんおられるでしょうし。
コストが余計にかかる分は請求しやすくなるでしょうから。
業界としては業務が増えて潤うかもしれません。
でも、本来しなくて良いはずの無駄なことをして、仕事が増えて喜ぶ…
というのもなんだか複雑です。
何か付加価値を生んでいるわけでもありませんから。
結局は依頼者様の負担、社会全体の無駄なコストが増えるだけのように感じます。
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