飲食、アパレル、美容、小売スーパー、家庭教師など。
学生も含め、アルバイトを多数雇用する業種で。
税務調査の際、必ずと言っていいほど疑われるのが【架空人件費】です。
脱税効果絶大!架空人件費
このブログを読んでおられる、良識ある皆様には難しいかもしれませんが。
絶対に税金を払いたくない確信犯の脱税者さんの気持ちになって考えてみてください。
今年、集計してみたところ500万円の利益が出ています。
なんとかこの利益をなかったことにしたい。
方法は、「売上を帳簿上減らす」か「経費を水増しする」のどちらかです。
「経費を水増しする」という方法を取る場合。
方法は、「本当は経費でないものを経費に混ぜ込む」か。
「ありもしない経費をあったことにする」のどちらかです。
「本当は経費でないものを経費に混ぜ込む」の典型的なパターンとしては。
個人的な遊び代の領収書を「交際費」と称して混ぜ込んだり。
奥さんと行った温泉旅行の航空券代を「旅費交通費」として混ぜ込んだり、です。
「ありもしない経費をあったことにする」の典型は。
自営業者ではない親戚や友人からレシートを必死に集める、といったパターンです。
どちらもちまちまとした涙ぐましい努力の割には。
大した効果、ないですよね。
平均3000円のレシートを100枚混ぜ込んで、ようやく30万円分です。
これで減らせる税金は、税率が25%なら、7万円程度でしょうか。
良心という大切な財産を犠牲にする対価としては、なんともせせこましい数字です。
それと比較しますと、架空人件費。
「ありもしない経費をあったことにする」の最強パターンと言えるかもしれません。
存在しない架空の、月8万円のアルバイトさんを【一人】いたことにすれば。
あっという間に年間96万円の経費が作れます。
2人なら年間約200万円、3人なら300万円!
脱税の手口としては効果絶大ですよね。
【架空人件費】を疑われる理由
「効果絶大」ということはどういうことでしょうか。
言い換えれば、税務調査の際。
調査官は「絶対にそこは見逃さない」という強い気持ちで臨むポイントということです。
ちまちました個人的なレシートが混ぜ込んであるのを数百枚見落とすよりも。
架空バイトを一人見落とす方が重大なのですから、当然です。
今度は調査官の気持ちになって考えてみましょう。
どんな事業所は「架空人件費」の疑いが濃いでしょうか。
同じ従業員さんが皆10年、20年と勤めている事業所。
しかも正社員で社会保険に加入していて年末調整もきちんと行われている事業所。
「架空」にしようが無いですよね。
給与台帳を調べて、「この人本当にいるんですか?!」と聞くまでもありません。
たいていは目の前に当人がいるでしょうから。
ところが、冒頭で書いたような業種。
社会保険加入の正社員さんが10年20年と勤めるわけではなく。
細切れのアルバイトさんが入ったりやめたりしながらを繰り返す事業所。
当然社会保険は対象外の上、場合によっては月給88,000円以下で源泉税すら発生しない。
その上。
給料は現金支給で手渡しだったりしたら…?!
下手をすれば「給料を支払った証拠」など、何一つ残らない場合があります。
そして、以前の記事で書いたように税務調査は4、5年後に来ます。
その時にスタッフが総入れ替え状態で当時の人は誰もいなかったら…?
これはもう疑われない方がおかしい状態ですよね。
「給与明細の控え」なんて何の証拠にもなりません。
脱税の意図も悪気も無かったとしても。
実際、正直にアルバイトさんの給料を経費に計上しているとしても。
結果的に上記のような状態になってしまっていては、調査官は黙って帰るわけにもいきません。
「本当なんです。信じてください!」
と叫びさえすれば調査官がみんな帰るのであれば。
真面目に税金払う人なんていなくなってしまいます。
ですから、その人物に給料を間違いなく支払った証拠を提示しなければなりません。
ここで、よくある大きな誤解です。
一般的な経費の証拠資料は「領収書」です。
それと同じ感覚で。
給料の証拠資料として「給与明細の控え」さえ保管すれば良い、と思っておられる方がおられます。
「領収書」が証拠資料になるのは「他人が発行したから」です。
「自分で書ける」給与明細なんて、何の証拠にもなりません!
後からいくらでも書けますよね。
人件費の証拠資料【履歴書、源泉徴収簿、給与支払報告書】の3点セット
そう考えると、「給料を払ったと証明できる書類」とは何でしょうか。
社会保険加入の社員であれば。
社会保険加入手続の書類、月額算定基礎。
そして実際に引き落とされている社会保険料がまぎれもない証拠ですよね。
その人物が架空の人物ならそもそも手続きができませんし。
実際には働いていないのに勝手に名前を借りて働いていたことにさせたとしたら。
当人にすぐにばれてしまいます。
このように、当人が存在しなければ手続きができず。
かつ、勝手に名義を借りるとどこかでばれてしまう手続きがあれば。
その手続きを踏んであることで、間違いなくその人物がいたことを説明できますよね。
月額88,000円以下の給料のアルバイトでも行えるその手続き。
それが、年末調整後に市町村に提出する「給与支払報告書」です。
最近は電子申告ですのであまり見かけなくなったかもしれませんが。
1月末に、従業員の住所の自治体ごとに、源泉徴収票の複写式の裏紙をまとめて。
表に○○市長様、と宛名と提出人数を書いた表紙を付けてホッチキスで止めて提出する、あれです。
自治体はあの給与支払報告書を受け付けて。
何か所かから給料をもらっている人がいれば、その人ごとにまとめて。
その人の年収を計算し、住民税を計算して徴収します。
つまり、この段階で。
もし架空の人物の給与報告であればエラーになりますし。
実際は雇っていないのに給料を出した形にしていれば、当人が翌年、異様に住民税が高いので気付きます。
ありもしない給料で課税されたらたまりませんよね。
自治体に問い合わせが行けば、そちら経由で足がつくことでしょう。
このように、どんなに月給の低いアルバイトでも。
源泉徴収簿を作成し、税額0でも年末調整計算を形式上行い。
給与支払報告書をきちんと自治体に提出することで。
架空人件費を疑われるリスクを限りなく下げることができます。
源泉徴収簿作成の段階で、どのみち住所・氏名・生年月日は押さえる必要があるのですが。
通常採用の際に履歴書を提出させるでしょうから。
履歴書まで一緒に保管すれば完璧ですね。
架空人件費は、認定されれば即数十万円単位の本税と。
故意の悪質な脱税として重加算税がもれなくついてくるポイントです。
確信犯の脱税者さんが追徴を受けるのは当然としても。
「手続をしていなかった」というだけで、本当は正直な納税者さんが疑いをかけられたり。
実際に追徴を受けるのはあまりに気の毒です。
今日、いまさらながらこのテーマを取り上げたのは。
これから施行される【マイナンバー制度】に。
今日の論点が大きく関わってくるのではないか、と個人的に予想しているからです。
その内容は次回の記事で。
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