前回までの記事で、「8%」「10%」の境目について書いてきました。
他にも食品とそれ以外のものを一緒に販売した場合はどうだとか、
新聞と一般の図書はどう区別するとか、書き出すときりがありません。
でもその境目以上に。実際の申告で大やけどしそうな特例があります。
導入後4年間は特例だらけ!
日本で初めての軽減税率導入。当然大混乱が予想されるわけですが。
中でも国が危惧しているのは、「どうにもならなくて申告書が出せない」
という企業。特に中小企業が続出することです。
本来複数の税率が存在する状態で消費税を申告するには。
諸外国で用いられているインボイス制度の導入がセットのはずですが。
皆そこまですぐに対応しきらないだろうと。
インボイス導入は4年後に先送りされました。
そしてさらに当初の4年間は。
8%10%の区分経理をしたり、それをまとめて申告書をかいたり。
全くしていない状態で。
税務署の確定申告会場に資料を持ち込まれることを想定して。
ある意味、「もう適当でもいいですよ!」というくらいで。
申告書を何とか書ける特例が用意されています。
本来は一年間のすべての売り上げを8%、10%別に集計して。
預かった消費税を計算するのが当然ですが。
「一年間、全くそんな風に分けたりしていません!」と開き直った人は。
「どこか10日間サンプルを取って、その比率で計算しただけでいいです!」
という特例や。
本来簡易課税を選択しようと思うと、必ず事前に届け出が必要なわけですが。
「本則課税なんですけど、さっぱり経費の8%10%分けていません」
という人は。
「もうその年から簡易課税使っていいです!」
という特例など。
他にも様々あります。
特例があると有利選択をしなければならない
カンの良い方は、これが税理士泣かせなのに気が付かれたでしょうか。
現行でも「簡易課税制度」という制度があります。
本来これは、「本則課税」で計算をすることが難しい小規模事業者に配慮して。
特例的に簡便な方法で計算することを認めた制度です。
でも税理士は。
「計算がカンタンだから」などという理由でクライアント様を簡易課税にはしません。
選べる制度がある以上、「どちらが有利か」をシミュレーションして。
「有利だから」簡易課税を選択したり、本則に戻したりするわけです。
ということは。
今回の改正でも、「対応が間に合わないから」作られた特例とはいえ。
そちらが有利ならそちらを採用することが、職業倫理上求められますよね。
「どこか10日間サンプルを取って」その比率で良い、なんて言われた日には。
一年間に350回以上ある10日間の比率のうち。
一番有利な比率を探し回らなければならないわけです。
特例がいくつもあってどれも適用できる場合には。
それぞれを適用したシミュレーションを全部のパターンで作って。
その中から一番有利なものを選ばなければならないわけです。
後からクライアント様に、
「先生、こんな風に計算したらもっと安く済んだんじゃないんですか!」
などと言われるわけにはいきませんし。
場合によっては損害賠償請求を受ける可能性もあります。
もしその企業が売上高数十億クラスの企業様だったら…
適用の比率が数パーセント違っただけで…
考えるだけでも恐ろしいですね。
特例が「基準期間売上高5000万円以下の事業者のみ」になりましたので。
随分損害賠償請求を受ける可能性のある金額は少なくなりましたが。
それでも、急激に伸びている企業様についてはかなり注意が必要です。
~連載記事【消費税軽減税率の落とし穴】~
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