裁判所が後見人を選ぶ「法定後見」よりも。
自分で後見人を選んでおける「任意後見」を利用したい、と思われる方に。
任意後見契約の落とし穴と注意点をまとめてみました。
法定後見と任意後見
以前に書いた「成年後見」についての記事でご紹介したように。
裁判所が「親族」ではなく「第三者」を任命することが増えています。
当人の保護のためにはその方が望ましいとはいえ。
自分がその判断力の低下したお年寄りだったら…と考えると。
ある日、私がぼけているのを心配した親族などが裁判所に行くわけですよね。
連れていかれた裁判所で、はっきり「ぼけています」と認定されて。
知らない人が後見人になるらしいことを知らされるわけです。
もっとも、このあたりのこともよくわからない状態と思われますが。
それでもこの「半ば強制的に知らない人から世話を受ける」ということに。
少し違和感を覚える方もおられるでしょう。
成年後見制度には、このように裁判所が後見人を決める「法定後見」と。
前もって、元気なうちに後見人を自分で頼んでおく「任意後見」とがあります。
よく面倒を見てくれる可愛いお子さんや孫や。
長年お世話になった弁護士さんや税理士さんなど信頼できる人と。
前もって「任意後見契約」を書面で交わし、公証役場で認証してもらいます。
当事者同士の契約ですので、お願いする内容も自由に決められます。
後日、自分の判断力が低下し。
「後見が必要」という状態になったことが裁判所で認められると。
その事前にお願いしていた「任意後見契約」がスタートします。
任意後見契約の落とし穴
判断力が低下していても。わからなくなってしまっていても。
可能な限り自分のことは自分で決めたい。
いわゆる「自己決定権」を尊重した非常に良い制度だと思います。
しかし、大きな問題が一つ。
任意後見契約は、結ぶ時点では「まだ判断力は正常」という前提で成り立っています。
契約を結んだあと、ある程度の期間が経過して判断力が低下したのち。
契約が発効して後見がスタートします。
問題は、この「契約」から「後見がスタートする」間の期間です。
任意後見を依頼した相手が、近所に住む子供や孫であれば。
頻繁に会うでしょうから、自分の様子がおかしくなれば気付いてくれます。
しかし、長年お世話になった弁護士さんや税理士さんに。社長を引退してしばらくしてから。
「今までお世話になりました。今度は世話が必要になったときも、お願いします。」
などと依頼した場合。
日常的には会わない相手ですから、判断力が低下しても、相手は気づけないわけです。
何年後に判断力が低下するか、など、契約の段階ではわかりません。
それでたいていこの任意後見契約には、それまでの期間の依頼をセットにします。
つまり「判断力がおかしくなっていないか、定期的に様子を見てくれ」という依頼です。
一般に「見守り契約」などと呼ばれ、月一回程度の訪問や連絡を内容としています。
そして、「後見がスタートする」というのは。
もうかなり判断力が低下して日常生活に支障を来すようなレベルです。
判断力は瞬間で低下するわけではなく、時間をかけて徐々に低下することがほとんどです。
それまでの段階で、例えば家を売却するとか購入するとか。
施設に入居するとか。
大きな金額の伴う契約などはすでに難しくなる時期が来ます。
それでこの任意後見契約に、後見がスタートする前の期間についても。
「財産管理」については、後見の関係しない通常の委任契約として。
依頼をすることが多いようです。
「後見」でない「財産管理」は危険!
裁判所の認定を経て、正式に後見がスタートしますと。
後見人は、毎年必ず「財産目録」や「収支報告」を裁判所に提出しなければなりません。
以前の記事でも書いたように、横領が非常に増えていますから。
裁判所は以前にも増して厳しい目でチェックしています。
つまり、「後見が始まればかなりの程度安心」と考えて良いと思います。
問題は、「後見がスタートしていない財産管理の依頼」の期間です。
この期間、依頼を受けた側は、誰にも報告義務がありません。
もちろん、依頼者本人には報告します。
しかし依頼者の判断力は徐々に低下しています。
もう完全に依頼者は、いわゆる「わからなくなってしまっている」状態になっているのに。
裁判所に誰も申し立てをしなければ。
誰にも報告義務がない状態で、この依頼を受けた人物は当人の財産を好きに扱えます。
この状態が継続するのがいかに危険であるかはご想像のとおりです。
実際、こういう人は本当にわずかだと思いますが。
約10年ほど前、この契約を利用して、後見がスタートする前の財産管理の期間に。
1年半で500万円以上の報酬を請求していた司法書士さんがおられました。
「請求する」というとなんだかそれらしく聞こえますが。
財産は自分が預かっているわけですから。
そこから単に「引き出した」「横領した」だけです。
司法書士会では、「二度とこういうことを起こさない」ために。
この後見がスタートする前の「財産管理」契約については。
裁判所の代わりに、司法書士会で設立した団体に報告させる仕組みを作って。
第三者の目で、チェック機能を働かせるようにしているそうです。
任意後見契約は一生もの!安易に結ばない!
このように、制度としては非常に優れた「任意後見」。
自分で自分の老後の世話をする人物、その内容を決めておける。
その自由さの裏には。
「おかしな人に依頼した場合には、その報いが自分に返ってくる」
という責任が伴います。
任意後見契約を結ぶ際に、きちんと説明もせず。
「これも、これも、内容に入れておきましょう!」
と、全権を契約に含めたがるような人物。
契約を急ぎたがるような人物。
そして、以前ありました、リフォーム業者など。
何かの営業に来て、ついでに任意後見契約を結ばせようとするような業者。
「なんだかよくわからずハンコを押してしまった」では済みません。
自分の判断力がなくなって。
自分が自分で自分を守ることができなくなったあと。
全面的に信頼して自分の世話を頼んでよい人なのかどうか。
契約の際にはよく検討なさって下さい。
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