自分の判断力が低下する前に。
自分のお世話をする人を決めておける「任意後見制度」。
しかしせっかくの良い制度も、悪用されると大変なことになります。
財産を狙った長男が自分を任意後見人に!
実際にあったケースだそうです。
90歳を過ぎた資産家の母親。
60代の独身、自営業の長男が同居しています。
他に弟と妹がいますが、二人は家を出てそれぞれの家庭を築いています。
この同居の長男がたちが悪く。
母親の財産があるものですから、飲んだくれて自営業もさぼりがち。
当然商売はうまくいかないのですが、母親の通帳からおろせばお金はあるので。
特に気にもせず好きにしている、いわゆる「経済虐待」の状態です。
「経済虐待」だけならまだともかく。
90過ぎのお母さんがだんだんと判断力が低下し。
おかしなことを言い始めるのにイライラして。
家のものを叩き壊したり大声で怒鳴ったりするので。
実際に身体を傷つけることはなかったそうですが。
心配した近所の人から通報されて、警察が様子を見に来ることもあったようです。
弟と妹がそれを聞きつけて、次第に心配になります。
かといって今同居しているのは兄なので。
どうしたものかとほうぼうに相談します。
その動きに感づいたこの長男。
お母さんにたかれなくなったら大変です。
急いで弁護士に相談したところ。
「先に任意後見人になってしまえばどうですか?」
というアドバイスを受けたそうです。
確かにこのケース。
弟と妹が裁判所に「母が大変なので後見人をつけてください」と申し立てをすれば。
100%、長男以外の後見人が付くでしょう。
その時点でお母さんの財産は全てその後見人が預かり。
お母さんにとって一番生活しやすいと考えられる施設に入居するなり。
警察のご厄介になるような長男以外からお世話を受ける在宅サービスを選択するなり。
長男は全く手が出せなくなります。
そこで、先に「任意後見契約」を結んで長男が任意後見人になってしまえば。
裁判所が「判断力が低下している」と判断したとしても。
後見人になるのは長男、ということです。
長男は急いで実際に契約書を作成し、公証役場で認証してしまいました。
基本的には「任意後見」が「法定後見」に優先-例外あり
前回の記事でも書いたように。
国がお世話する人を決める「法定後見」よりも。
より当人の意思を尊重するための「任意後見」。
当然、「任意後見人」を選んでいる人が、「判断力が低下した」と認定したときに。
裁判所が強制的に「法定後見人」をつけるのでは制度の意味がありませんので。
基本的には「任意後見契約」がされていれば「任意後見人」が後見人となります。
しかし、例外的に。
「家庭裁判所が本人の利益のため特に必要があると認める場合」。
たとえ任意後見契約がなされていたとしても「法定後見」が行われることもあります。
上記のケース。
あまりにもあからさまだったこともあり。
そして過去の通帳の動きから経済虐待の事実が明らかで。
警察のご厄介になっている履歴などの証拠が揃っており。
また、お母さんは以前から様子がおかしかったことが推察されますので。
お母さんは本当に制度を理解して任意後見を長男に依頼したのか。
契約の時点ですでにかなり判断力はあやしかったのではないか。
長男の言われるままにハンコをついてしまったのではないか。
かなり疑われる状況があり。
という点などを総合的に考慮されたのだと思いますが。
任意後見契約は無効とされ、法定後見開始の審判が下りたそうです。
このケースではあからさまに証拠が揃っていたため、大事には至りませんでしたが。
そうでもないようなケースであれば、任意後見が優先されることでしょう。
このような身内のケースだけではなく。
悪質な業者がらみのケースなど。
世話を受けることになる本人が、制度を良く知らないことを良いことに。
「任意後見制度」を悪用しようとする人が今後増えることが予想されます。
自分や、自分のお父さんお母さん、おじいさんおばあさんのために。
正しい知識を身に着けていきたいと感じます。
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